サイレント
「私、今日すごい飲んだよね」

「うん」

「明らかに酔ってるよね?」

「……うん?」

「だから……しょうがないよね」

一は樹里の言葉に首を傾げた。
途端に樹里が泣きそうな顔になる。

「酔ってたっていう言い訳でもしないと、やってらんないの。……ごめん」

その声は世界で1番悲しく一の耳に響いた。

ホテルのユニットバスは狭かった。
烏の行水のごとく素早くシャワーを浴びて部屋に戻ると浴衣姿の樹里がベッドの上にちょこんと座ってテレビを見ていた。

一も無言でその隣に座る。髪をタオルで無造作に拭いて、横目でちらりと樹里を見た。

こんな時に何故かクラスメイトとの雑談を思い出す。

何組の誰が夏休みにとうとうヤっただの、昨日親父の隠していたエロ本をこっそり見ただの。

同級生は殆どの奴が彼女もいやしないのに、そういうことにはひそかに興味を持っていた。
もちろん一だって例外ではなく。

けれど、一にとってそれらは全て妄想の範囲内のことで、
そして隣にいる樹里はとっくに誰かとそういうことをしてしまっているんだろうと思うと悔しかった。
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