サイレント
「あ、これ知ってる。前にもやってた」

樹里がテレビを見ながらぽつりと呟く。

一は「へえ」と相槌を打ちながらもテレビの内容なんて全然頭に入っていなかった。

「先生」

声が上擦る。
樹里がびくっと肩を震わせた。

それで初めて一は樹里が今までずっと平静を装っていたのだと気がついた。

「先生、テレビ見たい?」

「……」

「俺もう寝たいんだけど」

パチンと部屋の明かりを消した。
テレビの明かりだけになる。それも樹里が震える手で消すと真っ暗になった。

心臓が高鳴る。

手探りで樹里の腕を掴んだ。

「先生さ、今まで何人と付き合った?」

「え……、あの、」
「やっぱいいや。聞きたくない」

そのまま樹里を押し倒して唇を重ねた。

全てが初めてで、言葉に出来ないくらい物凄かった。

想像なんかとは比べものにならない。
相沢の妄想なんか、同級生の妄想なんか、絶対に太刀打ち出来ない。

やばい。
病み付きになりそう。

ゲームより漫画より野球より、夢中になりそう。

他のことなんか今はどうだっていい。
父も、離婚も、母も弟も、進路も、金も。

全部樹里が忘れさせてくれた。
< 102 / 392 >

この作品をシェア

pagetop