サイレント
きっと今、一は樹里のことなんて見ていない。

樹里が何を考えてるかなんて知ろうともしていない。

ただ、目の前の快楽に夢中になってるだけ。

「ハジメくんなんか……」

「え?」

「嫌い。大嫌い」

言って樹里は一と身体を入れ替えた。
覆いかぶさって一の首に手を回す。
思ったより太い一の首。一がごくりと唾を飲んだ。喉仏が上下する感触が掌に伝わる。

首を絞めた。

一の表情は気持ちいいのか苦しいのか区別のつかないものだった。

このまま、死ねたらどんなに幸せだろう。

樹里は人生のその先にある終わりを想像しながら一の首から手を離した。

「先生、もう無理」

死にたい。



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