サイレント
今朝着替えるときには気がつかなかった。
よりにもよって今日はVネックのニット。
気がついていれば別の服を選んだのに。

樹里は慌てて一つに結んでいた髪をおろした。

ちょうどその時授業終了のチャイムが鳴った。

「あ、次給食だったよね。給食はクラスで食べれるよね?」

「あ、はい」

樹里は追い出すように相沢の背を押した。
保健室の扉の前で相沢が立ち止まり、樹里を振り返る。

「何?」

「あ、いやあ。先生ってさ、彼氏とかいるんスか?」

「……いないよ」

自分で言ってて自分の言葉に傷ついた。

冷たい氷の刃で胸を貫かれたようだった。
一は彼氏じゃない。お金と身体で繋ぎ止めているような関係を恋人同士とは言わない。

だったらもう、割り切って開き直ってしまえばいいのに、どうして私はこんなに不器用なんだろう。

廊下から入り込んでくる冷気に鳥肌が立った。
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