サイレント
生活費も相変わらず樹里から受け取って、父から振り込まれた金には手をつけていない。

父とのことは何一つ樹里に話していなかった。

金という繋がりを無くしたら樹里はもう今までのように会ってくれなくなる。触らせてくれなくなる。
そんな予感がした。

金を借りる必要が無くても一には樹里から金を受け取るしか今の関係を守る手段が見つけられなかった。

自分がずるくて汚いことをしているのは重々承知の上だった。

今年の冬は暖冬だと誰かが言っていたけれど、夏に比べたら十分寒く、外には暖かさのかけらもない。
樹里が保育園の頃は雪が今の倍以上降っていたらしいが、一が小学校の頃だって今に比べたら雪は多かった。

「芹沢先輩」

6時間目の授業が終わってさっさと帰ろうとしていた一は下駄箱の前で一年の女子に呼び止められた。

野球部であった一には下級生の女子との面識は殆ど無く、声をかけられることなど珍しかった。

「もう帰るんですか?部活本当にやめたんだ」

一を呼び止めたのは保健室の常連客らしい茶髪の女だった。
確か早瀬とか言う名前。

早瀬のセーラー服のスカートは他の女子より十センチは短かった。
耳にはピアスがキラリと光って、存在そのものが校則違反のようだった。

「何?」

「んー。別に何ってこともないんですけど、先輩って彼女とかいるんですか?」
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