サイレント
早瀬の唇はリップグロスというやつを塗っているのか、つやつやと輝いていた。その薄い唇の口角が持ち上げられ、挑発的に笑う。

「何でそんなこと教えなきゃなんねーの?」

一は言葉に感情を込めずに言った。

「気になるから。同級生とか、下級生にはいないよね。いたらすでに噂が広まってるはずだもん。先輩目立つから」

一はまともに答える気もなく、ただ下駄箱に寄り掛かって足を組んだ。
中途半端に履いたスニーカーの踵を少し踏んで早瀬を見下ろした。

廊下を通る女生徒たちが信じられないというような顔で一たちを振り返りながら通り過ぎていく。

「うーん。そうだな、質問変えてもいい?」

「……何?」

「先輩エッチしたことある?」

恥ずかしがるそぶりも見せずに早瀬は言った。
挑発的な唇がさらに言葉を続ける。

「年上の女の人からお金もらって」

鳥肌が立った。
学ランの下の肌が泡立つ。

何でだ?
こいつ、何か知ってんのか?

「先輩ってハーフでしょ?お母さん元気?お父さんはちゃんと家に帰ってくる?」

さらにぞっとする。
一は地面を蹴るようにしてスニーカーに足を突っ込むと歩き出した。

玄関の外に出る。冷たい空気が一の頬を撫でた。
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