サイレント
ありえない。
話したこともない下級生の女が一と樹里のことを知るわけがない。臆病な樹里が生徒に話すとも思えない。

どこかで見られたのか?

用心していたはずだけれど、それが1番可能性としては高かった。

数ヶ月ぶりに相沢から「日曜日に遊ぼう」と誘われたのはそれから間もなくして。一月の終わりのことだった。

学校の友達と遊ぶのはかなり久しぶりだった。
そのおかげで一は自分がどれだけ日々樹里と狭い世界で溺れていたのかを実感した。

グラウンドに雪が積もると野球部は殆ど筋トレばかりになってしまう。
なので冬は普段より休日は遊ぶ時間が増えるのが野球部だった。

一は約束の時間に少し遅れて相沢との待ち合わせ場所に到着した。

黒いブルゾンに中はトレーナー。そしてデニムにキャップを被った服装にした。

駅の自転車小屋の前に相沢の姿を見つける。

「悪い。待たせた?」

「いや、平気」

学校のヘルメットがカゴに入った自転車に跨がり相沢は笑った。

「んで、今日はどうすんの?電車乗ってどっか行くわけ?」

「んにゃ。俺ん家行こうぜ。後ろ乗れよ」
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