サイレント
何だか相沢の様子が変だった。マグカップをじっと見下ろしていたかと思えば突然溜息をつく。

「相沢?」

一が呼ぶと相沢ははっとしたように顔を上げた。

「何だよ。悩み事?似合わねえじゃん」とからかってみる。

しかし相沢は「うーん」と曖昧に唸っただけだった。

柚子ティーが喉を下って身体を温めていく。

「イチはさあ、女にフラれたこと、ないだろ?」

唐突に相沢が言った。

「は?」

「ある?」

「いや、ないけど。つか、告ったこともないけど?」

「……だろうなあ。イチは。俺なんか今までに二回フラれたことあるぜ」

初耳だった。相沢とは小学校から一緒だったが、今までそういうことは聞いたことがなかった。

「たいてい、別の奴が好きだからってフラれる。一人はイチが好きだって言ってたぜ」

一はどう反応していいのかわからず、「ふーん」とだけ小さく言った。

「金城先生は、いいよなあ。こないだ、甘い紅茶入れてくれたしさあ。今までただの憧れだったけど、」

「けど?」

途中で黙り込む相沢に苛立って一は「何だよ言えよ」と、ややきつい口調で続きを催促した。
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