サイレント

three

タイル張りのバスルームの床は氷の様に冷たく、樹里の裸足の足の裏から体温を奪っていく。

築25年、樹里とほぼ同じ歳のこの家のバスルームは冬、とても寒い。
花柄のタイルにシャワーの湯をかけてから樹里は自らの身体にも湯を浴びる。

水色のバスタブに溜まった湯の中に液体の入浴剤を混ぜると温かさを求めて素早く身を浸した。

休日は決まって朝風呂に入る樹里は一週間の疲れを癒すかのように、バスタブの中で目を閉じた。

朝日に包まれたバスルームには湯気が充満し、まるで朝霧のようだ。

目を開くと樹里は手首を持ち上げた。
薄く皮膚の色が異なる部分が幾層にも重なっていた。

もう止めよう。
手首を切ったって何も変わらない。

一を好きで、好きならしょうがない。
いいじゃない。一が樹里を必要としているんだから。

子供が大人になるのなんて案外あっという間。
それ以上に自分が老いるのは早い気がするけれど。

それでも離れたくないなら無駄なあがきはやめてしまえばいい。
いっそのこと、学校を辞めて、どこかの病院で看護師として働いてみようか。

それなら今より背徳感は少なくなる気がした。
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