サイレント
尾垣は家まで車で迎えに来た。
家の前の細い通りに黒のワゴンが止まるのを待ちながら樹里は男に車で迎えに来てもらうのは何年ぶりだろうかと考えた。

別に一を助手席に乗せて自分が運転するのに不満があるわけじゃない。
そんなことは何も関係ない。一に会えるのならそれでいい。

「さってと。どこ行きますか」

樹里が助手席に座ると尾垣はニッコリ笑って車を発進させた。

尾垣は樹里より二つ下だけれど、殆ど年齢差は感じなかった。

高校三年の時には一年の男子がひどく子供に見えたのに、ハタチを超えたらどうということもなくなる。

14歳の一に比べたら23歳なんて年下でも何でもない。

「金城先生って休みの日、いつも何してるんですか?」

「え?ああ、たいてい午前中は家にいて、昼からは友達の所へ行ったり」

咄嗟に一のことを「友達」と言い換えた自分が滑稽だった。

「へえー。……デートは?」

「しない」

「マジで?彼氏いないんでしたっけ」

「……」

尾垣の車が一の家の裏道を通りすぎる。
樹里は条件反射の様に一の部屋を見上げた。
家にいるのだろうか。そういえば一から友達と遊びに行ったりした話を聞いたことがない。

「金城先生?」

「え?あ、ごめん。何だっけ」
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