サイレント
慌てて尾垣を振り返るが、尾垣は苦笑してそれ以上何も言わなかった。

樹里から見れば尾垣は普通のどこにでもいるような男に見えるが、女子生徒からは人気があるようだった。

保健室に来ていた女の子達が尾垣の話題でキャアキャア騒いでいたのを聞いたことがある。

あの年頃の女の子達にしてみれば教師なんて若くて並以上ならそれだけでかっこよく見えるものなんだろう。

憧れ。

先生なら同級生より大人で優しい。
そういう思い込み。

実際はそれほど大人じゃないし、中身もどんな人間だかわかったものじゃないのに。というのは樹里が実際大人になってみて初めて実感したことだけれど。

尾垣の車は30分程走り、おしゃれなカフェの駐車場に停まった。

食事をしている間に樹里が尾垣についてわかったのは、とにかく女慣れしているということだった。

話題から仕種や行動から、全てにそれが滲み出ていた。

「金城先生って色白いですよねー。ほら、俺のと比べるとオセロみたい」

言いながら尾垣がごく自然に樹里の手を取る。
一瞬、ギクリとした。
反対の席の尾垣に腕を取られたせいで長袖の袖口から樹里の手首が見えそうになり、思わず樹里は尾垣の手を振り払った。
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