サイレント
ふざけて答えてくれた尾垣に何だか救われた気分だった。

ここで真剣に答えられたりしたら手のほどこしようがないくらい落ち込んでいたかもしれない。

「人によるんじゃないですか?若くても好みじゃなければスルーだし、すげえ年上でもめちゃくちゃ好みだったら惚れる」

店を出る際に、付け加えるように尾垣が言った。

終わったはずの話題をいきなり持ち出されて樹里は一瞬何の事だかわからなかった。

少し考えて先程、デザートを食べていた時に樹里が投げかけた質問の答えだと理解する。

いかにも軽そうな尾垣が真面目な顔でそう言ったので意外だった。

「金城先生もそうじゃないですか?すげえ年上とか年下の奴が自分の好みをそのまま絵に書いたような奴だったら、同年代の好みでも何でもない男よりそっちを好きになりません?」

逆に問われて樹里は答えられず、曖昧な作り笑いでごまかした。

考えるまでもなく樹里は一を選んだ。
それが事実なだけに尾垣に対して「そうだね」だなんて本当の事、後ろめた過ぎて言えなかった。

年齢なんかじゃない。
一が年下でも年上でも同級生でも、樹里は一を好きになっていた。

ただ、同級生や年上なら悩む必要がなかっただけのことで。
それでも今のような関係になれたのは一が樹里よりうんと年下で、生徒だったからこそだということも否定しようがない現実だった。
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