サイレント
「ふざけんなよ!」

一の計算通り相沢は一を殴った。
こっちは手加減無しだ。相沢は手加減てものを知らない男だ。
いつも、いつでも直球勝負。カーブなんか、変化球なんか使わない。

けど、少しくらい手加減しろよな。

一は殴られた頬の痛みを我慢して相沢を見つめていた。頬が熱い。

唇かどこかが切れたのか、口内に血の味が広がった。

「何だ。殴れるんじゃん。なら始めから殴れよ」

「理由も何もないのに殴れるわけないだろ」

あるんだよ、それが。
心の中で答えるけれど決して口には出せない。

「俺は殴れるよ。お前のこと」

「イチ、いい加減に」
「いい加減にしなさい!」

うんざりしたような相沢の言葉を遮るようにして樹里が言った。

いつの間にか増えていたやじ馬を樹里は保健室から追い出し、相沢と一を振り返って睨みつける。

「二人ともそこに座って」

有無を言わせない迫力の樹里に一達は黙って従い、ベッドに腰掛けた。
こんなに強気な樹里は珍しい。
樹里は一達に向かい合うようにして隣のベッドに腰掛ける。

「今は何の時間?」

「掃除の時間です」

答えたのは相沢だった。
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