サイレント
「わかってるなら喧嘩しないでよ」
「でもイチが、」
「確かに芹沢くんが悪いけど、相沢くんも手を出したら一緒」
樹里はそう言うとそれ以上喧嘩の原因について追及することなく保健室の隅にある小さな冷蔵庫からアイスノンを取り出し、相沢と一にそれぞれ渡した。
全く平等な態度。
樹里は相沢と一の顔をじっと見比べる。一は何となく樹里と目を合わせずに斜め下を見つめた。汚れた内履きズックが目に入る。
そういえば弟のスニーカーがボロボロで新しいのを買ってあげなくてはいけなかったことを思い出した。
「相沢君は口の中切ったりしてない?」
「はい。平気です」
「じゃあ怪我してるのは芹沢君だけだね」
そう言って樹里の冷たい指先が何の前触れもなく一の頬に触れた。
思わず顔を上げる。樹里はじっと一の唇を見つめていた。親指で唇の端をなぞられる。
「少し切ってるけど大したことないみたい」
その時だった。ガタリと大きな音をたてて相沢が立ち上がり、樹里の手がぱっと一から離れた。相沢を見上げる。
「相沢?」と呼びかけるが相沢は一を見ない。
「あの、俺もう大丈夫なんで帰ります。部活もあるし」
頬からアイスノンを離し、それを樹里に押しつけるようにして相沢は大股で保健室から出て行った。
そんな相沢を黙って見送る。バシンと保健室の扉が閉じられた。
急に静かになった気がする。
樹里は何も言わずに一から離れ、消毒の類を乗せた台車をガラガラと引いてきて一の隣に座った。
消毒を染み込ませたガーゼをピンセットでつまみ、それを一の唇にやや乱暴に押しつける。
気を抜いていた一は思わず「イテっ!」と飛び上がった。
「でもイチが、」
「確かに芹沢くんが悪いけど、相沢くんも手を出したら一緒」
樹里はそう言うとそれ以上喧嘩の原因について追及することなく保健室の隅にある小さな冷蔵庫からアイスノンを取り出し、相沢と一にそれぞれ渡した。
全く平等な態度。
樹里は相沢と一の顔をじっと見比べる。一は何となく樹里と目を合わせずに斜め下を見つめた。汚れた内履きズックが目に入る。
そういえば弟のスニーカーがボロボロで新しいのを買ってあげなくてはいけなかったことを思い出した。
「相沢君は口の中切ったりしてない?」
「はい。平気です」
「じゃあ怪我してるのは芹沢君だけだね」
そう言って樹里の冷たい指先が何の前触れもなく一の頬に触れた。
思わず顔を上げる。樹里はじっと一の唇を見つめていた。親指で唇の端をなぞられる。
「少し切ってるけど大したことないみたい」
その時だった。ガタリと大きな音をたてて相沢が立ち上がり、樹里の手がぱっと一から離れた。相沢を見上げる。
「相沢?」と呼びかけるが相沢は一を見ない。
「あの、俺もう大丈夫なんで帰ります。部活もあるし」
頬からアイスノンを離し、それを樹里に押しつけるようにして相沢は大股で保健室から出て行った。
そんな相沢を黙って見送る。バシンと保健室の扉が閉じられた。
急に静かになった気がする。
樹里は何も言わずに一から離れ、消毒の類を乗せた台車をガラガラと引いてきて一の隣に座った。
消毒を染み込ませたガーゼをピンセットでつまみ、それを一の唇にやや乱暴に押しつける。
気を抜いていた一は思わず「イテっ!」と飛び上がった。