サイレント
「当り前だよ痛くなるようにしたんだから」

真顔で樹里が言った。頬がほんのり赤い。

「……何バカなことしてるの?」

「だって、何かすっきりしないじゃん」

「すっきりって何が」

「何でも。先生は気にしなくていいよ。つーかいつもみたいに優しくしてよ。俺怪我人なんだから」

一はふざけた調子で言った。樹里がムッとした顔で黙る。

「……先生」

「ん?」

「今日デートしよ。ドライブ」

樹里はうつむいてガーゼを捨てると小さく「いいよ」と答えた。
頬が緩む。どこまで不謹慎な人間なんだろう。母の行方もわからなくて、両親の離婚の危機で、友達を裏切っていて、そんな状況なのに自分一人だけこうやって幸せ面して樹里を誘う。

「いつから?」と聞かれた。夕方、相沢から電話がかかって来て、開口一番相沢は一にそう聞いた。

もちろん「何が?」としらをきる。

「お前がライバルだったなんて最悪。尾垣より質が悪い冗談だぜ。いつから好きなんだよ金城先生のこと」

相沢の不機嫌な声が一を責める。

「好きじゃないよ。何勘違いしてんだよ」

「……お前自覚ないの?それとも嘘ついてんの?」
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