サイレント
「どっちもハズレだろ普通に」

「何年友達やってると思ってんだバカ。お前試合でもゲームでも何でも、気に入った奴や欲しいもの見るといつも目に出るんだよ。目の色変えてんの。お前普段から表情わかりにくいけど俺、これだけは自信あるんだからな」

「へえ、俺そんなに物欲しそうな顔してた?」

「してた」

相沢がやけに自信満々に答え、一はどうしたものかと考えた。

変に否定し続けるのもかえって怪しいし、この際相沢と同じ片思いということにしておいた方がいいのだろうか。

「金城先生も、何かお前のこと意識してんじゃねーの?良かったじゃん。イチは本当、狡いよな」

ピンポーンと家のチャイムが鳴った。

リビングにいた弟が勢いよく玄関へ駆けていく。

「先生は俺なんか意識してないだろ。だって俺」先生と尾垣が二人で会ってるの見た。そう言葉を繋ごうとした時、背後で弟の嬉々とした声が響いた。

「お母さん!!」

聞き間違いかと思った。
受話器をそっと耳から離す。

「お帰り!今までどこ行ってたの!?」

恐る恐る一は振り返った。嬉しそうな顔の弟と、久しぶりに見る彫りの深い母の顔が目に飛び込んで来た。


「……母さ」

「ハジメ、タダイマ」
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