サイレント
一はまだ繋がっている電話を無言のまま切った。

「お兄ちゃん!お母さん帰って来たよ!」

「ゴメンね。長い間帰れナクて」

カタコトの発音で話す母は心なしか嬉しそうな照れ笑いを浮かべていた。
事態が飲み込めなかった。この数ヶ月の出来事と、母の態度にギャップがありすぎた。

「今までどこ行ってたんだよ……」

自分でも驚く程低い声が出た。
そんな一の声に弟が不安げな表情を浮かべるが、母は相変わらず笑みを浮かべて話し始めた。

「アノネ。友達のショーカイで温泉でスミコミで仕事あったの。ハジメもタクミも学校あるし、オカネ必要だったからそこでお母さん働いたの。でね、お母さんチャント働けばお父さんも帰ってキテくれるかもって」
「ふざけんなよ!!!」

一の怒鳴り声にその場の空気が一瞬にして凍りついた。

「何勝手なこと言ってんだよ!一万だけ置いて何も言わずに出てって、ずっと連絡もしないで!お金が必要?ああ、必要だったよ!あんたがいなくなってからずっと金が必要で必死だったよ!!」

バンと一は壁を叩いた。
びくりと母が肩を揺らす。弟はじっと俯いていた。

「ハジメ、でも私、お父さんに電話でしばらくオネガイしたよ。ハジメたちのことオネガイした」
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