サイレント
「本気であんなやつが俺らの面倒見てくれると思ったのかよ。いい加減気付けよあんた捨てられたんだろ!」
「ハジ」
「あいつは離婚届け息子に預けてそれで終わりだよ!」
母の顔から笑顔が消えた。弟もびっくりしたように顔を上げ、一と母の顔を交互に見た。
二人とも信じられないという顔だ。
「……ウソ」と消え入るような声で母が呟く。
「嘘じゃねえよ。見てみろよ。リビングの戸棚の一番上の引き出しに入れてある」
最悪だ。こんな展開。
何なんだよこれは。
一は狭い廊下で放心する母を押しのけるようにして玄関へ行き、スニーカーに足をつっこむと上着も着ず、上下グレーのスウェット姿のまま外へ出た。
アパートの駐車場を突き抜け真っ直ぐに樹里の家へ向かう道を歩いた。
吐き出す息が薄闇に白く浮かぶ。
空は限りなく紺に近く、所々紫や橙が混じっていた。
もうすぐ樹里が夕飯を作りにやって来る時間だった。
一はバス停の時刻表に背中を預けてしゃがんだ。
ここで待っていれば歩いて来る樹里をすぐに見つけられる。
さすがに前のように樹里の家の前で待つことは躊躇われた。
頻繁に行ってそれを誰かに見られたらマズイ。
「ハジ」
「あいつは離婚届け息子に預けてそれで終わりだよ!」
母の顔から笑顔が消えた。弟もびっくりしたように顔を上げ、一と母の顔を交互に見た。
二人とも信じられないという顔だ。
「……ウソ」と消え入るような声で母が呟く。
「嘘じゃねえよ。見てみろよ。リビングの戸棚の一番上の引き出しに入れてある」
最悪だ。こんな展開。
何なんだよこれは。
一は狭い廊下で放心する母を押しのけるようにして玄関へ行き、スニーカーに足をつっこむと上着も着ず、上下グレーのスウェット姿のまま外へ出た。
アパートの駐車場を突き抜け真っ直ぐに樹里の家へ向かう道を歩いた。
吐き出す息が薄闇に白く浮かぶ。
空は限りなく紺に近く、所々紫や橙が混じっていた。
もうすぐ樹里が夕飯を作りにやって来る時間だった。
一はバス停の時刻表に背中を預けてしゃがんだ。
ここで待っていれば歩いて来る樹里をすぐに見つけられる。
さすがに前のように樹里の家の前で待つことは躊躇われた。
頻繁に行ってそれを誰かに見られたらマズイ。