サイレント
第一身勝手すぎる。
勝手に出ていって連絡一つよこさず、勝手に帰って来て。

さらに、仕事をすれば親父が帰ってくるなんて夢みたいなことを本気で信じているなんて。

馬鹿だ。馬鹿みたいだ。

プライドも何も捨てて樹里から金を借りた自分が間抜けみたいだ。
一人で頑張って、父からは離婚届を渡す伝書鳩扱いされて、今度はようやく見つけたものを奪われようとしている。

母が帰って来れば樹里に家に来てもらう必要も、金を借りる必要もなくなる。

こうやって学校の外で二人で会うための口実がなくなるのだ。

店を出ると自然と二人の足はホテルに向かった。
毎度毎度樹里に金を払わせるのは気が引けたけれど、誘うのはいつも一の方だった。

樹里と二人でいるとしたくなる。
多分顔に出ているんだと思う。何も言わなくても一が樹里の手を取ればすぐにホテルへ連れていってくれた。

「先生、一緒に入っちゃダメ?」

部屋に入ると一はすぐにスウェットを脱いで樹里に言った。

バスルームに向かう樹里の腰に背後から腕を回し、肩に顎を乗せる。
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