サイレント
こんなことを言うのもするのも初めてだった。

何も返事をしない樹里の耳たぶに唇を這わす。
樹里の体がびくっと強張った。

「……ごめん。嘘だから早くあがって来て」

一はそっと樹里から離れてベッドの上に座った。
樹里が一を振り返る。

「……ホントに嘘なんだ」

「いや?ホントは本気」

沈黙。

樹里は一歩一に歩み寄り、床に膝をついて一を見上げた。樹里の両手が一の膝の上に置かれる。
上目使いに見つめられて煽られる。

我慢できない。
一は手を伸ばして、樹里をベッドへと押し倒した。

スプリングが軋み、樹里の身体が跳ねる。

「ハジメく」
「何も言わないで」

一は驚いて目を見開く樹里に噛み付くようなキスをした。
樹里の髪の毛が指先に絡まる。全てを奪い取るように一は樹里を抱きしめた。

息をするのももどかしい。

二人を隔てる樹里の服が邪魔だ。

言葉なんかいらない。余計な物は何一ついらない。

欲しいのはただ、今目の前にある身体だけだ。
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