サイレント

two

ラブホテルの天井には満点の星が散りばめられていた。もちろん本物ではなくフェイク。人工的に作り出されたそれはとても安っぽく、年代を感じさせる。

樹里は一の深すぎる黒い瞳に見つめられると何も考えられなくなって、ただ与えられる刺激に反応して声をあげた。

「先生、自分の手首を切るのってどんな気分?」

何度か交わった後、疲れ果ててうたた寝をしていた樹里に一が聞いてきた。

下着だけ身につけて足を投げ出している一は樹里の髪に手を伸ばし、撫でる。

樹里はしばし考えた。

どんな気分。

樹里はいつも死ねないとわかっていながらも手首に刃をたてていた。
無駄な悪あがき。本当に死にたいのなら心臓に深く刃を突き立てればいい。

「……わかんない。ただ、嫌なことから逃げたくて、消えたくて……でも切ったからってどうにもならないことはわかってるの。なのに止められない」

「……へえ」

「けど、最近はしないよ。前の痕は残ってるけど、新しい傷は作ってない」

樹里は布団から腕を出し、天井に向けて伸ばした。その腕を一が取り、唇へ持っていく。
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