サイレント
この愛おしい男の子が自分と一緒にいてくれることが未だに不思議でならない。

一の少し伸びた髪の毛は天然なのか、少しウェーブしていた。漆黒の髪の毛に漆黒の瞳。

他の子達より身長の大きい一を校内で見つけるのはたやすかった。

「ハジメくん。そろそろ帰らなくて大丈夫？明日も学校だし」

「うん」

こういう時、樹里と一の間に微妙な距離が出来る。

着替えて部屋を出る際に樹里は財布から一万円札を数枚取り出した。
それをドアの前に立っている一に差し出す。

「もうすぐお金なくなる頃でしょ」

いつもなら黙ってそれを受け取る一だが、今日は皺一つない一万円札を見つめたまま受け取ろうとしなかった。

「ハジメくん？」

二度瞬きをして一は一万円札に手を伸ばした。少し躊躇してそれを受け取る。

「じゃ、出よっか」

樹里は一がお金を受け取ったことに安心してドアに手を伸ばした。
< 142 / 392 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop