サイレント
もっとも深い、問題の核心をつくようなことを言われて一瞬、息をするのも忘れた。

胸が痛い。

会う理由なんてそんなの、樹里にはただ一が好きだからというそれしかない。
けれど一は違う。一が今まで樹里と会っていたのはお金が必要だったから。

「ごめん。少し意地悪言った」

完璧に黙ってしまった樹里に一が苦笑いで振り返る。

「先生は俺のこと好きなんだろ?」

確かめるように一が言った。

「俺だって別に、ただ金のためだけに先生といたわけじゃないよ。……言い訳に聞こえるかもしんないけど。本気で、母さんが帰って来なければいいって思ってる自分がいた」

手を伸ばせば捕まえられる位置に一がいるはずなのに、何だか今にも消えてしまいそうだった。

「けど、帰って来たものを追い出すことなんて出来ないし、正直金をもらわなかったら俺、先生とどう付き合えばいいかわからない」

言わないでそんなこと。
聞きたくない。

これ以上、何も聞きたくない。

「先生、おやすみ」

樹里の顔も見ずにそう言うと一はあっさりと車を降りた。

パタンとドアが閉められる。
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