サイレント
高校生の時から使っている机の引き出しからカッターナイフを取り出すのは久しぶりだった。

薄暗い部屋の中でカチカチカチ、と音を立てて刃を出す。

月明かりを受けて鈍く光りを放つそれを自分の柔らかな皮膚に当てがい、引く。

腕に真っ赤な血のラインが出来る。

数回そうやって自分を痛め付けた後、まだ血が乾かないその手で煙草を手に取った。

赤い色は樹里にとって血の色であり、最も刺激される色。
ショートケーキの上に乗っている真っ赤に熟れた苺が昔から好きで、苺は必ず真っ先に食べる。

樹里の部屋の家具も赤が多かった。

真冬にも関わらず樹里は部屋の窓を全開にして外を眺めた。
樹里の部屋からはさすがに一の家は見えない。
胸にぽっかりと穴が開いてしまったようだった。

失ってしまった。

愛おしくて大切で、何よりも尊い少年が、離れて行ってしまった。

彼の瞳が自分を写さないのなら生きていたって意味がない。
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