サイレント
ガキはいいよな。と思う。

一だって大人から見たら充分ガキなんだろうけれど、大人が思っているほど子供じゃない。
考えることも、欲望も、子供と言い切れるほど綺麗ではないし、全て理解した上で汚い手を使うことだってできる。

一は用意された朝食の半分以上を残して家を出た。
雪で足元の悪い通学路をひたすら黙って歩く。

いつもより早い時間だからか他の生徒たちの姿は殆ど見えなかった。


「なー、イチ。昼休み保健室行かない?」

体育の後、バスケットボールを片付けているとおもむろにやって来て相沢が言った。

手にしていたボールをカゴの中に投げ入れて相沢を振り返る。

「何で?」

「いいじゃん。お前も先生に会いたいだろ?」

「別に会いたくないけど」

「本当かよ。一緒に来てくれたらイチが昨日勝手に電話切ったこと許してやるぜ」

相沢が顎を上げて偉そうに鼻で笑う。
一はようやく昨日一方的に電話を切ってしまったことを思い出した。
母が帰って来たインパクトがでかすぎて今の今まで忘れていた。

「ところでイチ」

「あ?」

「今日女子から呼び出しはされてんのか?」

突然の質問に一は首を捻った。他のクラスメイトはとっくに体育館を去っていた。相沢と一の二人だけが向かい合っている。

「イチ、今日は何の日だ」

「平日。お前誕生日だっけ?」

「違う!」

「じゃあ何だよ」

やや苛立ったように言った。相沢が声を張り上げる。

「バレンタインだろーが!!」
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