サイレント
「いらねえって言ってんだろ」

口をついて出た冷たい言葉に自分でも驚いた。
とうとう包みを持った子の瞳が潤み始める。後の二人は一を睨みつけ、泣き出した子の肩を抱えるようにして保健室を出ていく。

「最低」

「何よ、カッコつけちゃって」

彼女達がドアを閉める際、捨て台詞を吐くのを忘れなかったことに笑えた。

呆気に取られた顔の相沢と目が合う。

「何だよ?」

挑発的に語尾を上げた。

「や、別に。もしかしてイチ機嫌悪い?」

「悪くないけど。つーか用があるならさっさとしたら?」

「あ、うん」

バレンタインとか告白とか離婚とか。纏わり付くような女達の言葉や視線はうんざりだ。
俺にどうしろってんだよ。期待するな。重たい。

俺はもっと、身軽になりたい。

樹里は黙ったままテーブルの上の書類に視線を落としていた。
相沢がそんな樹里に近寄る。

「あー。金城先生は、その。誰かにチョコあげたりするんすか?」

「えっ?」

慌てたように樹里が顔をあげる。どうやら今の相沢の声が耳に入っていなかったらしい。曖昧な笑みを浮かべて相沢を見上げていた。

そんなつもりはないんだろうけれど、その仕種が媚びているようで気に入らなかった。
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