サイレント
どうしてこんなにむしゃくしゃするのか自分でもわからない。

ただ、昨夜からいろんな事が重なって、我慢の限界だった。

「だから、チョコあげないのかって聞いてるんすよ。先生」

相沢の代弁をするように一は繰り返した。

「え、あ、」

「例えば尾垣先生とかに」

これは余計だ。義理はともかくとして、本命などあげるわけがないと分かっているのにわざと聞くなんて意地悪なこと。

「あげない……けど。むしろ今日がバレンタインだなんて忘れてたし」

「えっ。先生も？イチと同レベルじゃん！」

「……ごめん」

「や、謝る必要ないけど。でも忘れてたってことは先生好きな人とか彼氏とかいないんだ？」

相沢はわざと明るく振る舞っているように見えた。
どこまでも喧嘩腰な一のフォローに回っている。

樹里を安心させたい自分と困らせたい自分がいて感情のコントロールがうまくいかない。
これ以上言葉を続けたらどんな酷い言葉が飛び出すかわからなかった。

そんな事になる前にと一は立ち上がる。

「芹沢くん！」

ガタン、と椅子を揺らして樹里も立ち上がった。
振り返れば樹里は相沢がいるにも関わらず息が詰まるほど切ない瞳を一に向けていた。
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