サイレント
馬鹿。何、やってんだよ。

そんなんじゃ相沢にバレるだろ。

「あ、そうだ。相沢と先生にも一応言っとかなきゃならなかった。俺の母親、昨日退院したから。心配かけたけどもう大丈夫です。先生には特に弟のこととか相談乗ってもらってたのに報告が遅れてすいませんでした」

一は咄嗟に思い付いた台詞を言って頭を下げた。
こんな芝居でどこまで相沢を騙せるか疑問だったけれど、相沢はそれを信じたようで「そっか。よかったな」と微笑んだ。

樹里はただ悲しそうに目を伏せ、それ以上何も言わずに力無く椅子に座ると再びテーブルの上の書類に向き合った。

「なあ、何か金城先生元気なかったと思わねえ?」

結局一と連れ立って保健室を後にした相沢は心配そうに首を捻った。

「ま、先生にだって色々あんだろ。俺ら生徒に言わないだけで」

「まあそうだけど。つか、お前が金城先生に家のこと相談してたとは初耳」

「……ああ。たまたま」

「母ちゃんもう大丈夫なわけ?」

「多分」

階段を上りながら一は学ランの胸ポケットから飴玉を取り出した。ミルク味のそれを口の中に放り込む。
何が楽しいのか弟がよく、一のポケットにこっそりしのばせるものだった。それはキャラメルだったりガムだったり様々だ。
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