サイレント
「なあイチ、昨日の続きだけどお前もやっぱ先生が好きなんだよな?」

さっきより小さな声で相沢が尋ねて来た。
一は相沢を横目で見る。聞きたくてたまらないという顔をしていた。

「好き、ってのとは違う気がする。よくわかんねえ」

本音を口に乗せた。

樹里とするキスやセックスは気持ちがいい。樹里が他の男とそういうことをするのはきっと許せない。
けど、金を借りて樹里を手に入れた自分の気持ちを純粋な恋心と言っていいのかわからなかった。

相沢の恋心に比べたら一のものは酷く醜い。

「何だそれ。イチって意外と子供なんだな」

一の言葉を違うニュアンスで捉えた相沢は可笑しそうに笑って一の尻を叩いた。

「馬鹿。セクハラすんなよ」

「男同士だろー」

「意味わかんねーし」

今日から樹里は家に来ない。一は相沢とふざけながらも自分の心に埋められない穴が開いていくのを感じていた。

樹里はきっと傷ついている。そう思うのに優しくしてやれない自分のガキっぽさに苛々した。
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