サイレント
結局早瀬がまともに練習をすることはなく、部活は昼で終わり、樹里は早瀬と連れだって学校を出た。

「金城先生!待って下さい!!」

靴を履き変えている所で尾垣が追いかけて来て呼び止められた。
早瀬は一人でさっさと玄関を出ていこうとする。

「早瀬も待って。二人共これから一緒に飯でもどう?」

真っ先に反応したのは早瀬だった。「はあ?」と嫌そうに顔を歪める。

「いいじゃん。何でも好きなもの食わせてやるよ。それに、どっちみち家で食べたって同じことだろ?」

意味深な笑みを浮かべて言った尾垣に早瀬は目をすがめると、「金城先生は?」と樹里に振った。

「私は別に構わないけど」

「……ふーん」

苦虫をかみつぶしたような顔をして早瀬はしばらく黙り、大きな溜息をついた後「じゃあ、行く」と観念したように呟いた。

「よし!じゃあ今鍵とか持って来るから職員駐車場で待ってて下さい」

そう言って尾垣は一度職員室へ戻って行き、樹里は早瀬と二人で駐車場に出た。

尾垣のワゴンの近くの植木に浅く腰掛け尾垣を待つ。

制服姿の早瀬は少しだけ寒そうに手を袖の中に引っ込めて腕組みをしていた。

対して今日の樹里は平日ではないため、薄手の半袖ニットの上にボアパーカーを羽織っているだけで下はデニムだった。
< 166 / 392 >

この作品をシェア

pagetop