サイレント
学校の職員駐車場へ車を止めるとポツリ、とフロントガラスに水滴が落ちた。

樹里は空を見上げる。重たく、低く垂れ込める雨雲が今にも泣き出しそうだった。

雨は樹里が保健室に戻ってすぐ降り出した。
一のためにと開けておいた窓から雨が吹き込み樹里は慌てて閉めにかかる。

雨独特の湿った香りのする風がむあっと樹里の頬をかすめた。

窓を閉め、一の使っていたベッドのシーツを直す。

樹里はそっとシーツを掌で撫でた。

確かめるように二度、三度。床に膝をついてシーツに頭を乗せる。

いつもは薬品臭いシーツが、日だまりのような香りがした。

「……ハジメ、……イチ」

どうしてあの子なんだろう。こんなにも気になるのがあの子じゃなければ、何の問題もない。

その日降り出した雨は週明けまで晴れることなく続いた。
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