サイレント
二人が一緒にいる姿はとてもしっくりくる。恋人には見えないけれどお互い傍にいることがごく自然なことであるという空気が漂っていた。


樹里は運ばれて来たお好み焼きの具を掻き混ぜ、熱々の鉄板に乗せながら視線を尾垣達から一へと移した。真正面に座っていた一とバッチリ目が合いドキリとした。

慌てて目を伏せてお好み焼きの形を整える。
そんな樹里のお好み焼きのすぐ横に一のお好み焼きが広げられた。

嫌でも視界に一の手が入り込んで来て、存在を無視できない。

一の一挙一動に神経を尖らせながらも、じゅうじゅうと美味しそうな匂いを放ってお好み焼きが焼けるのをじっと待つのに夢中なふりをする自分が滑稽だった。

隣で冗談や罵倒を浴びせあえる尾垣と早瀬がうらやましかった。
間違っても樹里と一はそんなこと出来やしない。
そもそも真剣に喧嘩をすることも出来ない程度の関係でしかない。

一旦手を離したら怖くて二度と近づくことが出来ない。

本当はもう一度私の傍に来て、と言いたいのに。喉から手が出る程一が欲しいのに。
自信がなくて、嫌われたり、面倒だって疎ましく思われたりするんじゃないかって心配で、手を伸ばせずにいる。
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