サイレント
早瀬はさっと肩を竦めて「こわーい」とわざとらしく高い声を出す。

「ごめん、もう平気だから」

その隣で樹里が未だ充血した目をパチパチさせながら言った。
涙はもう止まったようだった。

早瀬の言ったことがあながち嘘ではないことくらい一だって気付いている。
樹里が一の前で泣く理由なんて他に思い浮かばない。

「早く食べよう。焦げちゃうから」

強がった笑顔でそう言う樹里は泣いてしまったことをごまかすようにお好み焼きに箸を伸ばした。

見ていてこれほど嫌なものはない。

どうせ、樹里のその真っ白な上着の下には傷だらけの皮膚が隠されているんだ。

すん、と樹里が鼻を啜る。

ひっくり返すのに失敗した一のお好み焼きはぐちゃぐちゃに形を崩す。
一はそれを更に箸でぐちゃぐちゃにして皿の上に乗せた。

一気に食欲が失せた気がする。

食事の間中、尾垣と相沢は適当に場を取り繕うようにして話題を見つけ、樹里はそれに対して相槌を打っていた。

樹里の瞳に一は映らない。明らかに一を見ようとしておらず、身体を斜めに傾け、尾垣や相沢の方から視線を逸らそうとしなかった。

時折早瀬が一を見ては意味ありげに笑う。
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