サイレント
一はその度に叫びたい衝動に駆られた。

何だよ。何なんだよ。
何か言いたいことがあるならはっきり言えよ。

次から次へと湧いて出て来る言葉を飲み込み、堪える。

けれど、そんな我慢もお好み焼き屋を出て学校へ戻って来た時にはとうに限界を超えていた。

尾垣が家の近い早瀬をそのまま車で送って行くこととなり、自転車通学の相沢はそのまま自転車小屋へ向かった。

一は相沢に「また明日な」と手を振ると、急いで自分の車に乗り込もうとしていた樹里を呼び止めた。

「先生、家まで送ってよ。どうせ帰り道だし」

一を振り返った樹里の目が恐怖を滲ませていた。
一は樹里の返事を待たずに車へ乗り込むとシートベルトを閉めた。

呆然と運転席のドアを開いたまま外に突っ立っている樹里を振り返る。

「乗ってよ」

語気を強めて言うと樹里は従順なペットのように大人しく運転席に座った。

「先生、久しぶりに俺ん家来ない?」

ギアを握る樹里の手に自分の手を重ねて問う。

「泣く程俺が好きなら、来ればいいじゃん」

「でも……」

「おいでよ。俺だって調度苛々してたとこだから」

強く言えば断られることはない自信があった。
先のことなんか今はどうだってよかった。会う理由とか、見つかる心配とかそんなものを考える余裕なんかない。
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