サイレント
質の悪い冗談に樹里が傷ついた表情を浮かべる。

「ハジメくんらしくないよ。そんな台詞」

「……俺らしいってわかんないけど。先生こそ」

「何?」

「いつの間に尾垣と仲良くなったわけ。部活見に行ったり、そんなの」

「別に仲良くないけど……」

樹里が一から目を逸らす。一はそんな樹里の腕を強引に取り、モコモコした白い上着の袖を捲くりあげた。

とたん、目の前に晒される痛々しい傷痕。
それは以前よりも酷い有様で、胸の奥が軋んだ。

「楽だよね。尾垣相手の方が。年下でもちゃんと社会人だし、車持ってるし、第一、親にも友達にも紹介できる」

樹里がうなだれる。一は樹里の傷痕を指先でなぞりながら歯痒い気持ちを押し殺した。

「俺じゃあ法律的にも結婚できないし、淫行呼ばわりだ」

「やめて。そんなこと言うの」

「何で?先生もわかりきってる事実じゃん。後悔してる?俺みたいな生徒に金貸したこと」

樹里はベッドの上で体育座りをして膝に顔を埋めた。

久しぶりに樹里に触れているというのに、凄く距離を感じる。盲目的に狭い世界で会っていたあの頃とはまるで違う。

数週間しか経っていないというのに。

「春休みになればすぐ、俺も三年だ。けど卒業してもまだ高校を三年行かなきゃならないし、大学なんてことになったら……」

それは果てしなく長い時間だった。
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