サイレント

「そんなこと……、私はハジメくんのこと、知らないもん」

今日で二度目の樹里の涙が流れた。

「普通にくだらないことで喧嘩したり、ふざけあったりとか……できないし」

「したじゃん喧嘩。今さっき」

「そっちから離れてった癖に今更何なの？」

樹里の頬を両手で挟み、とめどなく流れ落ちる涙を親指で拭う。

樹里はそれが気に入らなかったのかきっと一を睨み付けた。泣いている癖に強い光を放つ瞳にドキリと心臓が跳ねる。

「私は、多分ずっとハジメくんが好きだから、結婚も出来ずに一人寂しく死んでいくんだよ……」

真面目な顔でとてもじゃないけど信じられないようなことを言う樹里に驚いた。正気なのかと疑う。

ばっかじゃねえの。
何だよソレ。そんなこと、

「ハジメくんなんか、すぐに私のこと忘れて、可愛い彼女と」
「いい加減にしろよ、もう」

どん、と壁が揺れる程強く樹里を押し付けてその減らず口を自分の唇で塞いだ。