サイレント

three

「出てこないねえ」

手持ち無沙汰にダッシュボードの中から携帯型ゲーム機を取り出すと助手席に座る妹、幸子が斜め前に見えるアパートを見つめて呟いた。

尾垣はゲームの電源を入れる。

「そうだなあ」

学校の駐車場を出てすぐに幸子が金城先生の車を追い掛けて、と言い出したのでその通りに追い掛けてたどり着いたのが、一軒のアパートの前だった。

金城先生の家からすぐの所にあるアパートの前でかれこれ30分はこうしている。

「ねえ、怪しいよね。金城先生と芹沢一」

興味津々といった感じでアパートを見つめる幸子が言った。
まるで二時間サスペンスで張り込みを行う刑事のようだ。

「何があ?」

「何がって、兄貴も見たでしょ?二人して入ってったの!」

「うん。見たけど?」

「あの二人、デキてるよね」

その言い回しに思わずふっと笑いを漏らすと、幸子はむっとした顔で尾垣を振り返った。

「なーんだよ。俺とお前だって同じ家にいんじゃん。教師と生徒なのに一緒に風呂入ってキスした仲じゃん?」

「兄妹じゃん!第一そんなちっちゃい頃の話持ち出さないでよキモいから!」

「はいはーい」

歳の離れた妹は尾垣がからかうとすぐにムキになるから面白い。
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