サイレント
尾垣もアパートを見つめてみた。二階の窓を見上げる。芹沢一と金城先生が入ってしばらくしてからカーテンが閉められた部屋。

その少し前には金城先生達が入って行ったのと同じ玄関扉から小学生の男の子が外に出て行った。
多分芹沢一の弟。

食い入るようにアパートを見つめる幸子の頭をぐしゃぐしゃと撫でてから尾垣は車のエンジンをかけた。

アクセルを踏むと幸子が「えっ!?」と非難の目を尾垣に向けた。

「これ以上見てたってしょうがないだろ。第一出て来た金城先生と鉢合わせになったらマズイし」

「……そうだけど。つまんなーい!」

駄々をこねる幸子の肩に左手を添えて引き寄せる。
幸子はすかさず眉間に皺を寄せたが本気で嫌がっているわけではないことは長年の経験でわかっていた。

「芹沢、なあ。幸子の考えが当たってたらカナリ妬けるよなあ。あいつに」

「兄貴は女なら誰でもいんでしょ」

「いやいや、美人教師との恋愛は男のロマンだぜ」

「兄貴が言うとヤラシイ意味に聞こえるからやめてよ」

「だってヤラシイ意味だからな。芹沢一だって発情期の猿と変わんないぜ?幸子も学校の男子には気いつけろよ」

言いながら冗談で幸子の首筋を撫でてみたら強烈なパンチが飛んで来た。
思わず呻く。
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