サイレント
保育園や小学校の低学年の時には「お兄ちゃん」と傍にくっついて離れなかった幸子が今ではこの態度だ。

娘のように可愛がって、欲しがるものは何でも与えて来たというのに。

尾垣はバックミラーでもう一度小さくなったアパートを見つめた。
まさか、な。と思う。

尾垣が女子生徒に手を出すのと金城先生が男子生徒に手を出すのとでは随分わけが違う。
幸子の言うことを少しも信用していないわけではないけれど、金城先生がそんな大胆で危険な道をわざわざ選ぶとは思えないし、芹沢一が教師を口説くような男にも見えなかった。

どちらかと言えばノーマルで慎重そうな二人なだけに、よっぽどのことがない限り教師と生徒という垣根を超えたりしないだろう。

「あ、兄貴のせいで金城先生にURL送るの忘れた」

「URL?」

「うん。さっき話した携帯小説のサイト。兄貴も一回読んでみる?まんまあの二人に当て嵌めたらハマるから」

「遠慮しとく。俺、案外忙しいし」

尾垣の言葉に幸子は胡散臭げな表情を浮かべる。
幸子の目にはどうやら相当女好きでちゃらんぽらんな兄貴に映っているらしい。
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