サイレント
カーテンの隙間から見える空はまだ青かった。
薄いグリーンの羽毛布団に包れながら樹里は目の前で眠る一の顔を見つめた。
穏やかな寝顔が目に痛い。ゆっくりと体を起こすとすぐに腕を取られた。

寝ていたはずの一を見下ろせば捨てられた子犬みたいな表情をした一が樹里を見上げていた。

「帰んの?先生」

一の頭をそっと撫でる。

「帰らないよ。ちょっと、下着だけつけようと思っただけ」

そう答えると安心したように微笑むが、一はまだ樹里を離さない。

「急がなくてもいいよまだ。寝てようよ」

「うん。けどハジメくんのお母さんが帰ってくるかもしれないし」

「大丈夫。靴は持ってきてあるし。二階に来ることはないから」

喧嘩をしていたはずなのに気付いたらベッドの上で重なり合っていた。
無我夢中でその間のことはあまり覚えていないけれど、バカなことを口走ったように思う。

「あの、さ。忘れてね。さっき私が言ったこととか」

一から視線をそらすように背を向けて再び横たわると後ろから腕が回される。肩に一の吐息を感じた。

「……さっき?」

「うん。てゆうかとりあえず、その、あれ……してるときに私が言うことなんて全部、戯言っていうか、うわ言っていうか……あてにならないから」

「ふうん。全部嘘なんだ」

「……嘘、でもないんだけど」

二人でいると一が生徒だとか、年下だとかいうことを忘れてしまいそうになる。
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