サイレント
一は樹里を逃がさないように自分に向けられた背中にしがみついた。やわらかくて華奢な肩に顔を埋める。

抱き合っている時、「ハジメくんの赤ちゃんが出来ればいいのに」と樹里が口走り正直ギクリとした。
いくらなんでも中学生で父親になるなんて度胸を一は持ち合わせていない。
けれどそう言った後顔を真っ赤にして後悔したような表情を浮かべた樹里を見て「それもいいかもしれない」と思ってしまった。

14歳の一はどう頑張っても後4年は結婚できない。
樹里に一の子供が出来ようものなら、樹里一人が全ての不幸を背負いこむなんてこと、容易に想像できた。

それでも止まらない自分に嫌気がさす。

「ハジメくん。聞いてもいい?」

「何?」

「ハジメくんのお父さんとお母さんってどこで知り合ったの?」

一呼吸置いてから一は「スナック」と答えた。
友達には余り話したくない父と母の出会いだが、隠すほどのこととも思わない。

「ってゆーか、キャバクラみたいな感じかな。外人女ばかり集めた所で母さんは働いてて、親父は客として行ったみたい」

「へえ。そうなんだ」

「ろくな出会いじゃないだろ」

「そうかな」

「親父は母さんが俺を妊娠しなければ結婚なんかしなかったと思うよ。インド人と結婚ってことで両親から大反対されたらしいし」
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