サイレント
「離婚」という生々しい単語が一の置かれている今の状況をありありと映し出していた。

樹里が自分と一のことばかり考えている間、一は両親の離婚の危機に立たされていたなんて。

「ハジメくんは?……どうしたいの?」

「何を?先生とのこと?それとも親のこと?」

「親の離婚」

ふっと、なにもかも諦めたような笑いを漏らし、一は樹里の横に再び寝転んだ。

「別にどっちだっていい。今更両親に仲良くして欲しいなんて思わないし。第一そんなのありえないってわかってる。タクはイマイチ理解してないみたいだけど」

母みたいな全身で寄り掛かってくるタイプは自由気ままでいたい父にはずっと重荷だったんだろう。
一と弟も同様に。

「みっともない大人達だよな。離婚なんて、息子を経由せずに直接話し合えばいいのに。巻き込まれるこっちがいい迷惑」

暗く重たい空気が部屋の中に沈澱していた。
樹里が悲しげな顔で一の腕にしがみついてくる。

思いがけないその樹里の行動に胸が締め付けられそうになった。

「樹」

樹里、とそう呼び掛けた時だった。
突然ガチャリと勢い良く玄関の扉を開ける音が一の部屋まで響いて来た。
樹里の表情が強張る。
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