サイレント

one

樹里の車を見送って家へ戻るとリビングに母の姿はなかった。

ソファへ移動してテレビを見ていた父に母はと尋ねると「寝室」という返事が返ってくる。

父はチャンネルをニュースに変えると足を伸ばしてソファに横になった。完璧にくつろいでいる。

「一、とりあえず俺しばらくここに泊まることにしたから」

「……勝手にしろよ」

大方母が父の離婚話に同意せずに部屋に引きこもったってオチだろう、と一は推測した。
父に背を向けて部屋を出ようとすると「待てよ」と呼び止められる。

父はソファに横になったまま一を見ていた。

「さっき部屋に隠れてた女が例の女?」

「……だったら?」

「まだ切れてなかったのかよ。言っとくけど例えお前がその女を好きで、同意の上で付き合ってたとしても、バレて責任問われるのは全部女の方なんだからな」

一は全部わかっていると言わんばかりの父に再び背を向けた。

「……どこで知り合った?お前は夜遊びとかするタイプでもないし。まさか学校の先生とか言わないよな?」

歯を食いしばる。
腹の奥から込み上げてくる何かを押し殺すように「お前に関係ないだろ」と低く呟いて廊下に出た。

薄暗くなった階段に樹里の姿を重ねて胸が苦しくなった。
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