サイレント
一は言いかけて言葉に詰まる。たっぷりと10秒程無言で見つめ合った後、相沢が先に口を開いた。

「俺、誰にも言わないぜ」

普段とは比べものにならない程深刻な声だった。

「俺だって先生が本気で好きだから、もし先生が俺を好きだったら内緒で付き合うよ」

一は唖然とした。

「だから、俺にそんな風に嘘つくな」

どういう反応をしていいのかわからずただ瞬きをした。相沢が一度履いたスニーカーを脱いで内履きに変える。

「金城先生に会いに行くんだろ。校内なら俺もいた方が怪しまれないんじゃねーの?」

相沢は一の手にしていた紙切れを奪って目を通した。

「図書室ね」

ばれていた。いつから?
そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
相沢はそれ以上何も言わずに図書室へと続く階段を上って行った。

春休みの図書室はがらんとしていた。

中には生徒の姿も、樹里の姿もない。そのかわりに図書貸し出しカウンターに一枚貸し出しカードが置かれていた。

「これ、イチのじゃん」

入学以来殆ど本等借りたことのない一の図書カードは綺麗だった。

本の題名が三つ並んでおり、最後の一冊には見覚えがなかった。貸し出し日が今日になっている。
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