サイレント
相沢も同じようにして本棚に寄り掛かる。

「小説を読んだんだ」

「小説?」

一は眉間に皺を寄せて相沢を振り返った。
相沢は伏し目がちに続ける。

「その、一年の女の子が誰にも内緒にしてねって教えてくれたんだよ。携帯小説とかゆうやつ」

何故ここで突然そんな話題が出て来るのかわからなかった。

「それがさ。まんま、イチと先生なんだよなー」

ふいに、いつだったか早瀬に生徒玄関で呼び止められたのを思い出した。
あの時早瀬は妙に自身満々で、一に金をもらって年上の女と寝たことがあるかと尋ねて来た。

「どういうこと?」

「主人公が保健室の先生で、教え子が好きなの。ある日突然その教え子が先生に……頼るわけ。教え子の家庭環境が崩壊して、そっから二人が急激に親密になってく」

ふふっと相沢が笑いを漏らす。決して楽しいだとか、面白いという笑いではなくて、何だか諦めたような笑い方に見えた。

「それってモロイチじゃん?イチ、母親が体調崩したからって部活辞めたよな?」

「だからってそんなもん」

「信じないって思うだろ?俺も最初そう思ったけど、あれ読んでからもう、イチと先生のこと、付き合ってるようにしか見えなくなった」
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