サイレント
この間、一が玄関の中へ消えていくまでじっと見送った樹里はその時のことを思い出し、部屋の並びを数えた。
確かこちらから見て左から三番目が一の住む部屋。

二階は電気が着いておらず真っ暗だが、一階の明かりは点っていた。

歩く速度を緩めてその明かりの点いた窓を見つめる。カーテンがひかれていて中は見えないが、その明かりの中に一がいると思うだけで胸が熱くなった。

これじゃあまるでストーカーみたいだ。

暗い道で生徒の家をじっと見つめる自分の姿の異様さに気がついた樹里は慌てて歩みを進めた。

振り返っちゃ駄目だ。視界に入れちゃ駄目だ。

チロを適当な木の枝に繋いでコンビニに入り、急いでレジへ行くと、目当ての煙草だけを買い、樹里は来た道を戻らずに遠回りをして家まで走った。

自分が心底怖い。

こんな風に自分が抑えられなくなりそうな程誰かを強く想うのは、社会人になってから初めての事だった。

しかも相手がまだ成人にも満たない子供だなんてそんなこと、信じたくもない。
< 20 / 392 >

この作品をシェア

pagetop