サイレント
相沢は一の方に身体を向けると一の肩をきつく掴んだ。相沢の節ばった指がギリギリと一の肩に食い込み、思わず顔を歪める。

「でも、俺は遠慮しないから。好きでいるから」

「……うん」

「お前が先生傷つけたりしてたら許さないからな」

一は何も答えられなかった。樹里を傷つけない自信なんかどこにもない。
樹里の笑顔より悲しい顔の方が見慣れている一には到底無理なことに思えた。

帰り際、一は相沢にその携帯小説とやらを教えてくれと頼んだがあっさり断られた。

「自力で見つけろ」と言った相沢の顔には明らかな悪意が浮かんでいた。

けれど不思議なことに、今までずっと隠していた秘密がバレたというのに一の心はどこか晴々としていた。

肩の荷が下りたのとは違うけれど、ずっと誰かに打ち明けたかったのかもしれない。
許されないからこそ、知っても否定せずにいてくれる誰かを求めていたんだと思った。
< 200 / 392 >

この作品をシェア

pagetop