サイレント
その夜、父が突然一の部屋にやって来た。
問題集を片手に机に向かっていた一を見るなり父はにやりといつもの嫌な含み笑いを零し、何の断りもなくベッドに横になった。

この家に帰って来てからというもの、父はずっとリビングのソファで眠っている。
それというのも夫婦の寝室は母が鍵をかけて占領しているから。

「熱心じゃん。成績そこそこいいんだって?さすが俺の息子」

一は相手にせず問題を解き続けた。

「高校はどこ目指してんの?ここらで1番いいトコつったら俺の母校……か」

父は一が何の返答もしないことを一切気にせずに一人話し続けた。

「あーあ。ガキはいいよな。春休みに夏休みに冬休み。休みだらけだし」

この男の真意が掴めなかった。
離婚の説得に来ただとか、一を引き取って新学期には転校させるだとか言っていたわりに、一向に母を説得するそぶりを見せない。

のんびりしすぎているように感じた。

本気で離婚するつもりあんのかよ。

一は電気スタンドの明かりを消して問題集を閉じた。シャーペンを机に転がす。

「お、勉強やめんの?」

父が軽く身を起こす。
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