サイレント
父は自分から邪魔をして来たくせにこういうことを言う奴だ。
父が一の部屋にいるなら一は部屋を出るまでだった。
「あ、そうだ」
一が立ち去るのをベッドの上から見送りながら父は思い出したように言った。
「来週から俺、入院するから。お前の荷物、今週の土曜に運んじまうぞ。学校にもそう言ってあるから友達とか大事な奴には明日にくらい挨拶しとけよ」
階段を降りようとしていた一は足を止め、部屋の戸口まで戻る。
父は仰向けになり、火のついてない煙草を口にくわえていた。父の瞳は宙を泳いでいる。
「……どういうことだよ」
「前から言ってただろ。春休み明けには転校するって」
「じゃなくて。今、入院て」
一の言葉にふっと笑い、父は手を拳銃に見立てて自分の頭を指差した。
「こん中の物を切り取るんだってよ」
「は?」
「脳腫瘍って聞いたことあるだろ。成績優秀なハジメくんなら」
父の口調には一切深刻さを感じさせない軽さがあった。
戸口に立ったまま自分を見つめている一を見上げて父が片眉を下げる。
「おい。何て顔してんだよ。別に今すぐ死ぬわけじゃねーぞ」
父が一の部屋にいるなら一は部屋を出るまでだった。
「あ、そうだ」
一が立ち去るのをベッドの上から見送りながら父は思い出したように言った。
「来週から俺、入院するから。お前の荷物、今週の土曜に運んじまうぞ。学校にもそう言ってあるから友達とか大事な奴には明日にくらい挨拶しとけよ」
階段を降りようとしていた一は足を止め、部屋の戸口まで戻る。
父は仰向けになり、火のついてない煙草を口にくわえていた。父の瞳は宙を泳いでいる。
「……どういうことだよ」
「前から言ってただろ。春休み明けには転校するって」
「じゃなくて。今、入院て」
一の言葉にふっと笑い、父は手を拳銃に見立てて自分の頭を指差した。
「こん中の物を切り取るんだってよ」
「は?」
「脳腫瘍って聞いたことあるだろ。成績優秀なハジメくんなら」
父の口調には一切深刻さを感じさせない軽さがあった。
戸口に立ったまま自分を見つめている一を見上げて父が片眉を下げる。
「おい。何て顔してんだよ。別に今すぐ死ぬわけじゃねーぞ」