サイレント
「えー。金取るわけー?」

皆からはブーイングの嵐が吹き上げるが、祥子が笑顔を崩さず掌を出したままでいると、一人、また一人と観念したように百円玉を祥子の手の上に落としていった。

「まいどありー」

じゃらりと小銭をスカートのポケットに入れて祥子は席を立った。

さらりと黒いストレートの髪の毛を揺らして祥子は対角線上に教室を横断して男子が数人集まってご飯を食べている所を目指す。

自分の背中に女友達の視線が集まっているのを意識しながら祥子は大悟を呼んだ。

大悟とその友達が一斉に祥子を見上げる。
その中には芹沢一もいた。

「おお、祥子。どした?」

「うん。ちょっとさ、聞きたいことがあるんだけど、ご飯食べたら上行ける?」

上とは屋上に通じる階段の踊り場のことだった。
屋上への扉は鍵がかかっていて外に出られないのでそこの踊り場には人が近寄らず、内緒話にはうってつけの場所である。

大悟はにかっと子猿のような顔で笑うと「了解」と言った。

「じゃあ後でね」

そう大悟に言って自分の席に戻る際、祥子はさりげなく芹沢を見た。

その場にいる男子たちが皆祥子と大悟の会話に耳を寄せている中、芹沢だけは祥子に見向きもせず、焼きそばパンを頬張っていた。

何よ、こいつ。

そんな芹沢にむっとするけれど、決して顔には出さずに自分の席に戻った。
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